夜想曲のスケッチ2

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 ちょっと前の話だけど、その日の朝は雨の音で目が覚めた。布団の中でまどろんでいた頃(隣に寝ている大樹の冷たい差しがグイグイと入ってきて目が覚めてしまった)、なんとなくだが、外は雨だとか霜でも降りているんじゃないだろうかとぼんやり考えていたよ。

 時間は分からないけど、家にあるたくさんの隙間からは、朝の光が差し込んできていなかったから、少なくともまだその時は遠いと思って安心したぐらいだ。次に目が覚めたときは、はっきりと雨音だった。

 昨日からの天気予報では「この秋一番の寒さ」と言っていたから、あのそっとしたひんやり感は、その前触れだったんだろう。


 君の家はマンションだから、雨音で目が覚める事なんて無いのだろうか?僕の家は築20年以上も経つ木造ボロ家だから、雨音より軒先から落ちる雨だれの音が、時には家の中で雨漏りしているんじゃないかとビックリするぐらいの音を立てる事がある。その音の正体が分かるまでは安心できない時もあるから、家の中では風情ばかり楽しむわけにはいかない。


 ところで以前、君に「いくら寒くても手袋はしない」と話した事があるけど、はたして覚えているだろうか?特に今日みたいに冷たい雨がパラパラ落ちてくる日には、自分の中でも一層その思いを強くするんだが、傘の柄を持つ手に、いくつもの雨滴と冷たい風が当たり、真っ赤になってきても、それは変わらない。

 というのも、その冷たい雨や風の中にその季節を感じるからなんだよ。そして、そうした感覚がたまらなく好きなんだ。何故って、それは色々な場面を思い出させてくれるからで、駅までの小径の時間でも、すっかり葉を落としきったハナミズキの梢のいくつもの雫の中に冬を思ったり、旅先での記憶が見えてくるからなんだ。


 今日は昨日より秋が濃い。雨を含んで葉の色が濃くなったせいもあるだろうし、たまった雫の重みで、幾枚もの葉が落ちて、周辺からも足下からも赤や黄の色が目に入ってくるせいだろう。毎日毎日が活き活きとしているのを感じる季節になった、と言うと君は驚くだろうね。


(「てぶくろ」2010/11/17)