君は夜の雲を見たことがあるかい?もしあるのなら、じっくりと眺めたことは?きっと多くの人にとっての夜は、下界のネオンに目が泳いで、生活音と同じく夜の空は晴れていても曇っていても「暗い」というイメージだけだろうと思う。きっと目を向けてはいるけど、意識していないという感覚さ。先日、夜の畔田を歩いて帰ってきたけど、冬が近いから、風も冷たくて、おまけに小雨さ。幸い、透明のビニール傘を調達できたんで雨だれ越しだったけど、上を見ながら歩くことができた。もしかしたら冬雷が見られるかもしれないと思ってね。
そこは里山の谷津田というロケーションなので、道を照らす街灯もなく、遠く田と空を切り分ける境界に県道の街灯が行儀よく並び、そこをヘッドライトが右から左へ、左から右へと動いて行くのが見えるぐらいだ。
もっとも、この畦を所有している民家がこの谷津田にも何軒かあるから、まったくの無灯とは言えないんだが。
そんな場所だからこそ、森の向こうの市街地の明かりが雲に反射して、僕の足下を照らしてくれる、なんて書いたら君は驚くだろうか?でもね、暗闇に目が慣れてくると、いっそうはっきりしてくるものなんだ。
そういう目で空を仰いでみると、雲にも表情が表れてくる。その日も雲の切れ間から半月が顔を出したら、ちょっとしたプレゼントさ。その形から大体の方角がわかるからね。とはいっても、ここは僕の地元だから、そこまで深刻に考えはしないけど、何もなくても自然の中にはいろいろなサインが含まれているということを知っているのも悪くはない。
(「夜の雲」2010/11/15)