4月6日(土)曇り、「ブリュッヘン&アブデーエワのショパン」

 昨日、最後の来日、と銘打って行われた来日公演を聴いてきました。ブリュッヘン/18世紀オーケストラとしては最後になるということです。今回は彼らにとって日本では初披露となるショパンのコンチェルト。使用楽器は1837年製のエラール。歴史を感じさせる木目調の長細く、思ったよりも小さなピアノがステージ中央に置かれて客席を向いています。つまり、ピアニストは客席を向いた状態です。私の席からはテーブルを挟んで指揮者と向き合っているように見えました。
 
 会場には結構知った顔(あくまでもこちらがテレビで見たとか、そういう)が見受けられました。一番驚いてしまったのが、休憩の合間にトイレに行ったら、ばったりと有田氏。「あっ」という顔をしてしまったので、向こうも「ばれたか」みたいな表情をしていました(笑)。あとは数名のタレント。私はあまりテレビというものを観ないし、バラエティなどもとんと疎いので名前が出てきませんが、そうしたタレントの方々も数名いらしていたようです。もしかしたら、最近読んだ著名な調律師の方々もいらしていたのかもしれません(最近読んだのは「いい音ってなんだろう」と「ピアノはなぜ黒い?」)。しかも第二部が始まる前にピアノの分解が始まるし!
 
 1曲目はモーツァルト交響曲40番。ブリュッヘン氏、車いすに押されて登場。そうだったのか、最後の来日という名目だった理由がこの光景で納得できました。体は長身ゆえにきゃしゃに見えるし、指揮台に登る姿こそ弱々しいものの、そこに向かう姿からは、計り知れない力強い情熱を感じました。そして客席に振り向いた時の優しい笑顔。その表情を見て、腕を振り始めた途端に老齢ということを忘れてしまいました。
 
 モーツァルトが終わると、すぐに、もう一人の主役アブデーエワさんがさっそうと登場。ピアノが細長くて、しかも前向きに置いてあるから、ずっとピアニストの表情を見ながらの鑑賞です。なんと豊かな表情と、オケに合わせて体を大きく揺さぶるしぐさは見ていて飽きませんでした(お美しいのでなおさら)。
 
 古楽の演奏でピアノは初めて聞いたのですが、いくらピリオド・オーケストラの小編成だとしても、その音量は比べ物にならないぐらい小さく感じました。現代ピアノは大音量に設計されているから対等に協奏できるのでしょうが、当時のピアノは、ここまで大きなホールを想定していないから音量が小さいのですね。本では読んで知っていましたが、実演を体験して納得です。
 オケは左右に広がっているから、ホール残響を加えてステレオで聞こえてきますが、どうもエラールはモノラル・ラジオの音のように聞こえました(ピアノの置き場にも影響されているのでしょう)。これも歳月を経たヒストリカル・ピアノを聴く面白さで、これが体験で来て、それだけでも満足なコンサートでした。もしかしたらモダン楽器の美し響きに慣れているリスナーにとっては、耐え難い響きなのかもしれませんが・・・
 
 コンチェルトの1番が終わったところで全員が楽屋に戻りました。そこに現れたのが、エラールの持ち主である調律師。なんとピアノをばらし始め、鍵盤を「よいしょ」とはずして調律を始めました。これには会場のお客さんたちもステージ前に集まり、その成り行きを見守っています(中には写真を撮る姿も! ←係りに中止を受けていました)。舞台袖からもスタッフが時折やってきては深刻な表情を見せていました。調律師は冷静さを失わず、平然とコツコツと大工仕事のようなことをしています。スタッフが壁の時計を指さしていましたが、調律師は、その時だけ壁を見やりましたが、念入りに調整をしていました。そしてブザーが鳴る直前に作業を終えて、さっそうと舞台袖に消えていったのです。おおっ!カッコイイ
 
 目の前でそんな町立が行われたからか、第2番盤のエラールは見違えるような澄んだ音、ホールに溶け込むような音に聞こえました。曲については何も言うまい、そこにショパンのエッセンスが詰め込まれ、当時の楽器とスタイルで演奏され、その音に包みこまれているという以外、これほど素晴らしい体験は味わえないのだから。しかも目の前にはブリュッヘン
 すべてのプログラムが終わって会場は割れんばかりの拍手喝采ブリュッヘンは袖に引っ込んでしまいましたが、オケはそのまま残っています。せっかくのエラールなんだから、と思っていたらアブデーエワさんが何度か呼び戻され、舞台袖では調律師の方に促されるようにアンコールを2曲も弾いてくれました。オケのメンバーも特等席でじっと聞き入る姿が印象的でした。
 オーケストラのメンバーに、先に書いた有田氏とともに、アリアーレシリーズでレコーディングを行っている方々の姿を見つけ、うれしくなってしまいました。
 
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